著作権切れ作家「当たり年」 スマホで読む無料の名作が続々長編小説『宮本武蔵』などで人気が高い吉川英治(1892~1962年)や、説話集『遠野物語』で知られる日本民俗学の祖、柳田国男(1875~1962年)らの作品が、今年から誰でも自由に利用できるようになった。没後50年の著作権保護期間が昨年末で満了したからだ。著作権切れ作品を無料公開するウェブサイト「青空文庫」の存在もあり、普及の伸び悩みが指摘される電子書籍界で、著作権切れ作品の電子化が着々と進行している。(磨井慎吾)
「今年は、数年に一度の著作権切れ作家の“当たり年”」と語るのは、「青空文庫」世話役のライター、富田倫生(みちお)さん(60)。
青空文庫は今年1月1日から、吉川や柳田と同じ昭和37(1962)年没の詩人で小説家の室生犀星(さいせい)、俳人の飯田蛇笏(だこつ)、作家・評論家の正宗白鳥ら、近代文学史を彩る有名著述家の作品を次々に電子テキスト化している。
青空文庫で公開されている作品数は、今年2月現在で約1万1700。入力や校正はすべてボランティアが行っており、夏目漱石や芥川龍之介、太宰治ら人気作家は、ほとんどの作品がすでに電子化されている。
◆端末からアクセス
青空文庫へのアクセス数はここ数年右肩上がりだ。同文庫によると、ここ2年ほどはスマートフォン(高機能携帯電話)や米アップルの「iPad(アイパッド)」などのタブレット型端末からの利用が顕著な伸びを示しているという。
特に昨年は、電子書籍の閲覧に便利な上に比較的廉価な米グーグルの「ネクサス7」や、米アマゾン・ドット・コムの「キンドル」などの小型タブレット型端末が相次いで国内発売された。富田さんも「幅広い機器で使えるようになって、青空文庫への注目が高まっている」と利用拡大を期待する。
講談社顧問で、出版業界に詳しい評論家の鷲尾賢也さん(68)は、青空文庫の隆盛について「名作に依存している文庫本などに影響を与えるのではないか。高齢者にとっては、文字の大きさが自在に調整できるのもありがたい。(青空文庫でも読める)漱石などのロングセラー作品が、出版社の目録から消える日もあり得る」との見方を示す。
◆出版社は付加価値
著名作家の作品をそろえる“ライバル”ともいえる青空文庫への危機感から、出版社側も著作権切れ作品を紙の本で出す際の付加価値を高めることに苦心している。
角川学芸出版は1月から、柳田の没後50年企画として「柳田国男コレクション」(角川ソフィア文庫、全12冊)の刊行を始めた。担当の大林哲也さんは、出版社にとって著作権切れ作品が持つメリットについて「著作権者に払う印税が発生しないので定価を安く設定でき、採算ラインも低くなり、意欲的な企画が可能になる」と話す。
無料の青空文庫との差別化を図るため、同コレクションには伊勢型紙を用いた凝った装丁を施した。さらに大林さんは「数ある柳田作品から、何から読むかを選択して提示するのが一つの編集。第一線の執筆者の解説を付けることで、原文を右から左に流すだけではない、この作品を世に出す意義を生み出すことができる」と、編集作業による価値の創出を強調する,3DS対応マジコン 」。
著作権切れ作品は、誰でも利用できる公共財だ。長い時間に耐えて生き残ってきた古典が電子書籍として無料で気軽に読めるようになることは、確実に今後の日本語世界を豊かにするだろう。「最近の若者は電車内で文庫本も読まず、スマホやタブレットをいじってばかり」などと嘆くなかれ。その若者は、実は青空文庫で古典作品を読んでいるのかもしれない。
■TPP加盟なら保護期間は20年延長?
これまで順調に発展してきた青空文庫だが、大きな懸案も抱えている。
現在、「作者の没後50年」となっている著作権保護期間が、日本が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加盟した場合、米国に合わせた「作者の没後70年」に延長される可能性が指摘されているからだ。
富田さんは、「保護期間が没後70年になった場合、その時点から20年、青空文庫に新しい作家が入らなくなる」と危惧する。「日本の著作権法は作者の権利を守ると同時に、保護期間を制限することで、作品が広く使われることも目指している。延長は、共有知の発展を妨げることになる」と、延長反対の立場を示している。【関連記事】 「北欧ミステリー」が面白い,45 大丈夫だよ~! 共感呼ぶキャラが活躍 終了連載が読み切りで“復活” 漫画家たちの被災地支援 東京駅と文学 世紀を超え紡がれる物語…その魅力とは 絶版本、電子書籍で復刊! 低コストで古典や全集続々 挑戦する街の本屋さん「ビール片手に」「女性に特化」 石原慎太郎氏独演
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